弘法の筆謬り

外資系企業で働く戦略コンサルタントのブログです

トークストレートの本当の意味

コンサルティング業界には”Talk Straight”という言葉があります。
トークストレートという言葉をどの様に解釈するかは人それぞれ定義が揺れるところだと思いますが、私なりの定義は、「立場や役職に関係なく、クライアントバリューを高める目的に資する限りは臆することなく発言して良い(発言すべき)」というものです。

従来の通常の企業では、長いものにまかれろだったり、年の功だったりと、若手は会議での発言権すらまったくないような企業は未だに多く存在するいることでしょう。

これに対し、トークストレートは、企業価値の向上といった市場命題に資する限りは、若手だろうがなんだろうが発言すべき。そこに価値があるのであれば立場は問わない、といった従来の企業内コミュニケーションの”あたりまえ”に対するアンチテーゼとして打ち出されたものと私は考えます。

トークストレートが乱用されている

しかし人によってはこのトークストレートを、「何でも思ったこと言って良いよ!」という様な感じに解釈して、パワハラまがいのことを平気で口にしてしまう人も居るようです。以下このトークストレートを本来の意味と区別するために「トークストレート()」と表現します

人の気持を考えずに何でも言って良い、というような性質のコミュニケーションが中長期的に組織にどの様な結果をもたらすかなんていうことは火を見るよりも明らかなのですが、当の本人はそのトークストレート()を金科玉条のごとく振りかざして他人を口撃します。

言わなければ伝わらない、何も変わらないというのはその通りですが、思ったことを思いやりのフィルターを通さずに何でもそのまま発言してしまうのでは、ほとんど小学生と一緒です。

育てるためには時には厳しいことも、トークストレート()で伝えることが必要だ、という主張には一理あります。しかし厳しいフィードバックこそ、それに適した伝え方があります。

人前で厳しく叱責したり、メンツを潰すようなコミュニケーションは、どれだけその指摘が的を射たものであったとして、本人にとってはモチベーションが下がる要因でしかありません。

 

上司と部下のコミュニケーションに限った話でもありません。
クライアント企業とのコミュニケーションだとした場合でも、思ったことをそのまま言うことが本当に最善の結果を生むかどうかということについては首を捻らざるを得ません。

その道数十年、叩き上げで仕事を回してきた事業部長に対し、外のどこの馬の骨とも分からないような若造コンサルタントが、トークストレート()に企業戦略について論じようものならたちまち怒りを買うだけです。

コンサルタントが如何に価値の有ることを言っていたとしても、相手に受け入れてもらい企業が動かなければ、企業価値の向上に資することなど決して叶いません。

 

本来のトークストレートには、コミュニケーションをサボって良いという意図は含まれていないはずです。トークストレートの本当の意味を思い出し、乱用しないように気をつけたいところです。

外資コンサル流賃貸物件の探し方(番外編②)専任媒介という罠

※この記事は前回からの続きです。ぜひ概要編 らお読みください。

物件オーナー側の立場の話から入ります。

物件に空きが出そうなときは、オーナーは次の借り主を探す必要がありますが、借り主を自分で見つけてくることは通常出来ません。そこで仲介事業者にそれを依頼することになるわけですが、その依頼の仕方に大きく2種類あります。

「一般媒介」「専任媒介」です。

厳密には専任媒介は専属専任媒介と専任媒介の2つに分類されますが、趣旨とずれるので割愛してこの二元論で話を進めます。

一般媒介

一般媒介とは、物件オーナー(貸主)は複数の仲介事業者に借主探しを同時に手伝ってもらうことができる契約を意味します。

専任媒介

一方で、専任媒介とは、一般媒介と異なり、物件オーナーは仲介業者と専任媒介契約を結ぶと、他の仲介業者と一般媒介契約を結ぶことはできなくなります。
仲介業者からすると、独占的な契約です。

前置きが長くなりましたが、借り主として物件探しをするときは「専任媒介」に気をつけましょうという話です。

専任媒介物件は、他社から紹介してもらえない

上記説明を読んだあとだと当然のことではありますが、本記事の賃貸物件の探し方を一言で言うと、「複数の仲介事業者と信頼関係を構築し、良質な物件をいち早く紹介してもらえる体制を築け」ということに尽きます。

しかし、その信頼関係を構築した仲介事業者が、絶対に紹介できない物件があります。それが、専任媒介物件です。

過去に私が部屋を探していた時、懇意にしていた仲介事業者(Aとします)からは紹介されていないけれどもSUUMOに新着として上がってきた物件があったので、念の為Aに当該SUUMOの物件の状況を問い合わせたことがありました。

返答としては、「既に募集が終了している」というものでしたが、当該物件を扱っている(SUUMOに掲載している)仲介事業者(Bとします)に念の為問い合わせてみました。

すると、嘘でもなんでもなくその物件は募集中であり、申込みも可能であるとの返答が来ました。

つまり、仲介業者Bが専任媒介で扱っている物件について、仲介業者Aに問い合わせたところで、紹介は絶対にできないということです。当然ですね。

どれだけ仲介業者と信頼関係を構築したとしても、紹介できないものは紹介出来ませんから、こういった物件に気づける様に普段からダメ元でもSUUMOは確認しておくことがおすすめです。

掲載されている物件が専任媒介か一般媒介かどちらなのかに関する情報は、SUUMO上には掲載されていませんので、面倒でも毎回新しい物件は問い合わせておくことが必要です。

 

ちなみに専任媒介契約の物件はREINS上に物件情報を登録することが義務付けられているので、この場合REINSを見られる仲介事業者Aは、自社では絶対に紹介できない物件について他社にお客が流れることを虞れて、「既に募集が終了している」というウソをついたことになります。

誠実な営業であれば専任媒介であることを伝えつつも、その物件で事が足りなかった場合は引き続き物件をご紹介させていただきます、と言えるところかと思いますが、まあマニュアルとしてそう答えるようになっているのでしょう。営業というのは大変ですね。

外資コンサル流賃貸物件の探し方(第9回)契約

※この記事は前回からの続きです。ぜひ概要編らお読みください。

無事第一希望の物件の内見を済ませ、後は契約するだけとなってもまだ気を抜くのは早いです。
ここからは契約金に関する交渉事が発生します。

交渉できるのは、仲介手数料と家賃発生日の2つです。家賃や管理費等は物件オーナーの設定金額なので仲介事業者が決める権限を有していないところですので、よほど相場とはずれた金額ではない限り交渉は難しいと考える方が良いです。

仲介手数料の交渉

第5回で、仲介手数料の構造については解説した通りですが、基本的にオーナー側から仲介手数料をもらっていない仲介業者の仲介手数料を値引かせるのは至難の業です。

こちらがわが1件だけ物件を名指しで紹介してもらい、特段手間をかけさせていない場合は、私に対して何かしてくれましたっけ?という感じで詰めて(笑)値下げをさせることもあり得るかもしれませんが、仲介手数料は仲介業者の唯一の食い扶持ですので、よほどのことがない限り値引きは難しいものです。

また、本記事では仲介業者の方と信頼関係を構築し、沢山物件を紹介してもらうことを想定した戦略を書いておりますので、感謝の意味でもあまり仲介手数料は値切りにくいものです。

家賃発生日の交渉

どちらかと言うと、こちらの方が応じてくれやすいと思います。
家賃発生日を決める権限を持つのもやはり仲介事業者ではなく物件オーナーですが、仲介事業者があるていど交渉してくれることになります。交渉力を高めるポイントは下記2つです

契約の意思決定は迅速か

物件が市場に出回ってから契約までに時間がかかっていないので、家賃発生日を後ろに遅らせてくれ、というのはわかりやすい交渉力になります。

ところで物件退去日の1ヶ月又は2ヶ月前通告を借り主に義務付けている物件が多いので、仮に2ヶ月前通告の場合、新居の家賃がすぐ発生することになると、2ヶ月の間2つの物件に対して重複して家賃を払い続ける事になってしまいます。

これはあまりに借り手にとって不利であるばかりか賃貸物件の市場流動性を下げる要因にもなるため、物件の流動性を高めて仲介手数料を得ることを生業とする仲介事業者としても、ある程度借り手と利害が一致しています。

この申込み⇒内見⇒契約までのリードタイムが短ければ短いほど、借り手として交渉力が強くなります。

礼金を払っているか

礼金を1ヶ月分でも支払いを求める物件の場合は、家賃発生日を多少なりとも後ろに交渉することができます。

不動産業界に依然として残り続けるこの”礼金”という風習ですが、貸し手側からすると利益をいたずらにあげるというよりも、物件の稼働率を高める目的で残り続けるものだということがわかります。

不動産投資をしたことのある人ならよく分かると思いますが、不動産事業のKPIは1にも2にも稼働率(すなわち家賃の発生している期間)です。なんだかんだと理由をつけて契約までの意思決定を先延ばしにする借り手も存在しますが、その悩んでいる間も物件の稼働率は下がり続けます。

どうしても物件の借り手を募集してから実際に借り手に(空の部屋を)内見してもらい、契約をしてもらうまでには数週間程度の空白期間(家賃が発生しない期間)が発生してしまいます。

貸主として、借り主が変わるたびに毎回不可抗力として発生するこの空白期間を埋める意味で礼金を1ヶ月分設定する貸主も存在します。

ともあれ、礼金は貸主として一定の家賃不発生期間を許容し得る保険としての機能があるわけですから、礼金の分家賃発生日を遅らせてくれというのは一定の合理性をもつものと言えそうです。

 

ただ、全ては仲介業者の担当者の方次第です。

オーナーが面倒くさい人なのでできれば交渉したくない、この条件のまま契約してくれる方がありがたい、というようなケースであれば上の話をどれだけしたところで譲歩が引き出せないこともままあると思います。

こういう交渉をお願いするためにも、日頃から仲介業者の方とは丁寧に対応することを心がけたいものです。

本編まとめ

全9回に亘って書いてきましたが、本編はここで終わりになります。
私は現役のコンサルタントに過ぎず、不動産に関する専門家では有りませんので、もしかすると誤りのある部分があるかもしれませんが、コンサルタントが一大イベントである賃貸物件の選択について、何を考えてどう行動しているのかについて、”読み物”としてお楽しみ頂ければ幸いです。

「番外編① コンサルはどこに住むべきか」に続く